SQLer 生島勘富 のブログ

RDB・SQLの話題を中心に情報発信をしています。

Web系・SIer、ギーク・スーツについて

 ギーク・スーツとは、いささか古い表現ですが使いやすいのでこのまま使います。


 人間研究として原発事故について考えてきて、何度も「バカの壁」にぶつかった。やはり無意識ほど怖いものはなく、前提の部分で逆を向いているから、その後は全く噛み合わない。やっぱり巨大なバカの壁がある。その存在はずっと認識しているけれど、どうやったら乗り越えられるのか分からない。結局は、手を変え、品を変え、言い続けるしかないのかと思う。

BtoCとBtoB

 例えば、日本に巨大な商社は、三菱商事三井物産住友商事伊藤忠商事、丸紅、双日……、たくさんありますが、個人に何か売るかというと当たり前ですが売らない。世の中では BtoC と BtoB を比べると、比較にならないぐらい、BtoB の方が大きいです。

 新聞の株価のページを見て、個人に対して商売する会社を色分けしてみたら、その規模感が分かると思います。

 もちろん、EC の世界でも同じです。

 http://www.tsuhanshinbun.com/archive/2011/06/2010-1.html

 伸び率は BtoC の方が大きいですが、それは元々小さいからで、BtoBの168兆5170億円に対し、BtoCは7兆7880億円しかありません。楽天amazon などが伸びても、伸びた分、バックオフィスとしてBtoBも伸びるので、逆転することはないです。

 システム屋さんとしては、ECだけでも市場規模で差があるけれど、それに加えて社内システムも入るので、所謂、コンシューマ向けのWeb系ってもの凄く小さいのです。

 再生可能エネルギーのように元々小さなものは、少し力を入れただけで大変な伸び率になりますが、全体として考えると全く計算が合わない。伸び率も重要だけれどそもそもの割合の方が重要なのは当たり前。まあ、衰退産業はおもしろみに欠けるけれど、再復興期には伸び率が上がって、同じようなおもしろみはあります。衰退期なら、再復興させるにはどうすれば良いか考えてみればいいだけの話です。

ベーシックな部分にこそイノベーションがある

 AppleiTunes)にしても、楽天にしても、amazonnにしても、自分たちだけでイノベーションを起こしたわけではない。

 例えば、日本の中小製造業の様な高度な部品メーカーがあり、中国などが安くても高品質の生産が可能になったこと。小規模の物流つまり宅配が確立してきたこと、少額決済が可能になったこと、などなどが重なってできたことです。

 眼に見えているイノベーションは、最後の最後のアウトプットに過ぎません。一般の人の眼に触れないところで起きたイノベーションを集めて、最後のアウトプットをした人が目立っているだけなのです。私が目指すのは、目立たなくても大規模で社会に貢献できるイノベーションを起こすことです。ヌメーとスクロールさせるようにできて、それが売れたとしても、私はそれが「社会にどれだけ貢献しているのか?なんの役にも立たない」としか思わない。

 しかし、少額決済を行って、それを集めても大企業の経営が成り立つというのは、システム屋さんの大変な活躍があったわけで、それは本当に世の中を変えました。そういうベーシックな部分にこそイノベーションがある。地味なスーツの連中が起こしてきたイノベーションがホンマもんと私は思っている。

今でもイノベーションの種はたくさんある

 イノベーションの種はいくらでもあります。しかし、それを潰しているのは常識であり、既成概念です。

 極単純なものですが、顧客商品毎売上が商品毎の売上に占める割合を計算するとしましょう。という例を出してきました。

 私がおかしいと言い続けているのは、こんな単純なモノでも、パフォーマンスの予想を持たずに顧客と話をしている人がほとんどということです。

 多くの人は、現在の処理と比べて複雑だからもう少し遅いとか、簡単だから速いとか、ハードが速くなるからその分速くなるなどという勘で話をしている。これらは大概、トラブルの根本原因で、そのしわ寄せは下流がなんとかしているのが現状です。

 SQLを使わない処理を前提に考えれば、考慮しなければならないパラメータが多くなりすぎてパフォーマンスは予想はつかないから、実際値からの勘で予想するしかないでしょう。

 そのため顧客から言われたことを下回ることはあっても、上回ることはない。つまり、イノベーションなんて起きるはずもなく、できるか、失敗しかない。顧客が業務を変えたいと思って言い出したとき、それがギリギリ実現できるかどうかで、顧客の業務を変えるなんてことはこれっぽっちもできないのです。そんなものは、技術者ではなくサラリーマンの仕事でしかない。

 現実社会で少額決済が実現可能になったのも、細やかな宅配が可能になったのも、大きなイノベーションでした。その多くにコンピュータシステムは貢献しました。しかし、ほとんどはハードが追いついたから可能になっただけで、その何年も前にシステム屋の技術でできてたことが多いのです。理論値とのパフォーマンスの差は、データの分散具合などによって一概には言えないけれど、大体10〜100倍になります。1分の処理が、6秒〜0.6秒に、1時間の処理が6分〜36秒になるわけで、それだけ違えば、速くなる前提で業務を再構築することが可能になります。

 それこそが上流の仕事なのですが、今でも、ほとんどの上流技術者が理論値も持たず勘で話をしているという現状を考えれば、逃しているイノベーションの種はいくらでもある。常識に囚われているから気づいてないだけなのです。

 実際問題、私自身は目の前で何度も逃し、本当に悔しい思いをしてきた。逃していることを知っていて、黙っているのは最低の人間のすることですから、分かってしまった以上、声を上げるしかないのです。

 そんな大げさな?

 時速15Kmの自転車と、150Kmの自動車、1000Kmの飛行機、全く違う景色ですよ。自転車しか運転できなければ分からないし、分からないなら自転車しか運転する技術がない、技術が足りないだけの話です。

派手さに流されるのはガキンチョ

 好き嫌いもあるでしょう。「ギークがいいんだよ!」っていうのは気持ちの問題だから抑えようはない。しかし、テレビ局のアナウンサーとそれ以外の人の人数比と同じで、目立つ分野は、実はかなりニッチで競争が激しい分野なんですが、そちらに走りたいならそちらに行けば良い。

 問題は、スーツ側に来ているのに、ギーク側の真似をしたがる連中と、技術を分かってない上流技術者、更にどちらにもいる自分では考えず空気に流される連中。

 とにかく、上流技術者がパフォーマンスの理論値すら分かっていなければ、業務に対する影響も分かってないし、機能分割も根拠もなく従来の基準に沿ってやるしかない。

 上流技術者が技術を分かってないため、ギーク側の技術が正しいと認識してしまい、ギーク側の真似をする連中を正しいと認識してしまう。しかし、どちらも中途半端だから、UIもクソなら、パフォーマンスも出ない、どうしようもない半端物ばかりができてしまい、イノベーションはハードが追いついてくるまで待つ。という、なんとも情けない結果になっている。

 ジョブス氏のことを書いたけれど、ぶっちゃけ、重要なのはギークかどうかではなく、常識と戦うか、イノベーションを起こすかであって、その手段というか、得意分野が違うだけの話。私も、コンシューマ向けの仕事をするならジョブス氏と同じようにやったと思うけれど、BtoB はスーツの世界なのです。

 本当のイノベーションは、市場規模が巨大な上、頭が固い抵抗勢力が遙かに大きいスーツの世界で起こしたとき、もっと大きな破壊力が出ると信じている。私は馬鹿と言われてもその巨大なバカの壁に挑み続ける。
 
 まあ、上からも、下からも、それはそれはとてつもない抵抗がありますけどね。
 
 若い時分に派手な方に眼を奪われるのは分からないこともない。しかしそれは、大学生が、業界関係なく自分が知ってる(つまりTVコマーシャルをしているコンシューマ向け)企業の求人ばかりに応募するのと同じ。

 派手さに、わーっと流されるのは就活の学生と変わらんガキンチョじゃないか。もう、コンピュータ業界の中の人になったのなら、もう少し考えてはどうかと思う。更に、上流技術者にも、「上流はテクニックじゃない」というのを真に受けて、ホンマに何もない人が多いのも問題。自分で書かなくても良いけれど、最低限、パフォーマンスを予想して、それを元に業務を劇的に変える提案ができないなら、存在意義がない。

 もちろん、予想したパフォーマンスにするにはどうすれば良いか、自分でやらなくても指導はできなきゃ上流技術者じゃないでしょう。
 
 
 というようなお話をさせて頂きます。
 よろしければお越し下さい。

 第12回関西IT勉強宴会 上流工程勉強会
 2011/10/28(金) 19:00 to 22:00
 http://atnd.org/events/20842
 「データベース設計はプログラミングの後に行う」